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現在開催中のノンバーバル・パフォーマンス『ギア』
キャストに聞く、『ギア』の過去、未来、現在④!

『ギア』スペシャルインタビュー、ラストを飾るのはマジックパートの新子景視さんです。ダブルキャスト、トリプルキャストとある中で唯一、ソロですべての公演に出演している新子さんから見た『ギア』の魅力を語っていただいたほか、マジックそのものについてもお伺いしています。『ギア』はもちろん、マジックの楽しみも伝わってくると思います!

―― @ぴあ関西です。今日はステージ直後にインタビューさせていただきます。よろしくお願いいたします。トライアウト公演が始まっていますが、どうですか?

新子景視(以下、新子)「この長期トライアウト公演もスタートダッシュに過ぎないと思ってます。40回の公演をやる意義には、トライアウトを重ねて、一人一人のパートのさらなるスキルアップというのもあって。あと、お客さんの空気感を読むということに関しても、舞台経験をみんなで踏んでいって、もっともっと『ギア』っていう作品自体をスキルアップしていくことだと思いますね。本番は始まっていますが、それでもまだスタートだと思ってます」

―― ある意味、完成ではない。

新子「ないですね~」

―― 新子さんは唯一、『ギア』の全公演に出演されていますが、昨年1月から始まって、ご自身の『ギア』の捉え方とか、変わったことはなんですか?

新子「一度、マジックを違うジャンルで試してみたかったんですよ。今まで、例えば劇中にマジックがあったとしても、パフォーマンスとしてのマジックでしかなくて、ストーリーと絡ませたマジックとか、そのマジックにストーリー上での意味を持たせることはなかったんじゃないかなと。今回、『ギア』の設定が工場なので、できるだけ工場の中にあるものを使ってマジックをどう生かしていけるか。そして、それは万人ウケするのかしないのか、そのことを最初からいろいろ試してきたんです。で、やっと今回の第4弾のトライアウトで形になってきたかなという段階です。今年1月の長崎公演では全34回公演に出演して、その中でもいろいろ試行錯誤してぐっと固まった感じもありました」

―― マジックのアイデアって新子さんが考えてるんですか?

新子「そうなんです。演出家と僕が話をして、『こういうことが、こういうふうになったらいいのにな』っていう、演出家にまずは夢を言ってもらいます。こうなってくれへんかなとかって。それを叶えるのが僕のマジックです」

―― 魔法使いみたいですね(笑)。『ギア』で、劇中で一番最初にマジックされるシーンがありますが、そこで会場の空気も変わりませんか?

新子「変わりますね。あのシーンは、会場の雰囲気をギュッとつかむ一発目の僕の仕掛けなんですよ。変な言い方をすると、僕は作品の中に仕掛けを作ってるんです。もちろん演出家といろいろ話して、これをやってみましょうってやるんですが。そういう、物語の中にマジックを取り入れて、そのマジックを物語が動くきっかけにするっていうことは、あんまりされていないことなんですよ。でも、そんな絡み方をしてみかった。『手品』って書いて字のごとく『手ひとつに口三つ』っていうほど、口が大事やと言われているんです。ミスディレクションと言うんですけど、相手の気をそらすとか、そういう部分では必ず言葉が必要なんです。今回、ノンバーバルの舞台で、その中でミスディレクションを起こすのが一番最初のシーンなんですね。やってることはすごい単純なことなんですけど、あれでマジックが成立するように作ってます」

―― 普段のマジックでは、言葉で誘導されますよね。『ギア』は台詞がないわけで、その辺のギャップというか、違いはどうですか?

新子「僕はですけど、マジックはまず喋るところからスタートしているので、ノンバーバルでやることにかなりの壁がありましたね。どんなに一生懸命やろうとしても壁にぶち当たりました」

―― もどかしそうですね…。

新子「そうですね。だからといって芝居みたいなことはできないので、かなり苦労しましたね。マジシャンなんで、喋って何ぼなんですよ。でも、『ギア』への参加を機に、いろいろなものを見て、勉強したり、研究したりしました。挑戦というか、新しいことにもいろいろチャレンジしています」

―― その経験は大きいですか。

新子「仮に、僕が普段やってるマジックがある程度完成されているとすれば、喋らなくても(マジックが)できたとき、喋ってやる時により生きていくやろうなと。間の取り方であったりとか。無から有を生むには、こういう経験は非常に大事かなと思いますね。マジックは、先に納得があるからこそ驚きがあるんです。その納得をしてもらうためにはまず喋りがないとダメなんです。『ギア』ではそれを、ジェスチャーやパフォーマンスの振り、それプラスお客さんをいじることです。ノンバーバルだからもちろん台詞がない、台詞はないけど僕はそうやってお客さんをいじったりすることで言葉を発せずとも喋ってます。それがミスディレクションになってると思います」

―― マジックも演じることではあると思うんですが、『ギア』での演じ方は違いますか?

新子「何でしょう…別次元ですね。ノンバーバルでやるマジックと、普段僕がやっているマジックは別ものです」

―― なるほど。新子さんの動きもさりげないですよね。あの動きの中であっと驚くマジックが行われるとは思えないような。

新子「僕は、マジックっていうのは日常にあると思ってるんです。さりげなさが出ていたのなら、そういう僕の日ごろの考え方とか、クセだと思います」

―― では、他のパートの方はダブル、トリプルキャストですが、新子さんは唯一、ソロで出演されています。キャストが変わる面白さってどういうものでしょうか?

新子「まず、人によって作品の雰囲気が変わりますね。別作品って言うてもええくらい違うかなって思います。その日のお客さんがどういう空気なのか、キャスト5人でぱっと瞬時に見取って芝居を変えていく。そのスキルを身につけるのは、本番を重ねていくこと、経験でしか無理なんですよね。敏感に観客の反応を読み取って、パフォーマンスを展開していく。そこが『ギア』の良さですし、空気感がガラっと変わったからといってパフォーマンスが変になるってことはないですね。どのメンバーとでも、『この空気感で行く』っていうのを共有できてます」

―― その日のお客さんの雰囲気をつかむまでの時間って、回を重ねるごとに早くなりましたか?

新子「そうですね。回を重ねるごとにだし、同じ会場で何公演も経験をする、場数を踏むと違いますね。場所が変わればまた意識が変わりますし、空気感も全然変わります」

―― ストーリーは同じですが、キャストが変わったり、場所が変わったりすることで、雰囲気も違ってくると。その中での役作りはどのようにされてますか?

新子「ある程度、劇場を自分のハコにしてしまう。自分のやりやすい状態にする方がよりよいパフォーマンスができると思うので、そういう意味でも、舞台にはよくいるようにしてますね。自分には関係のない稽古の日にも舞台上にいたりとか。それが、自分のモチベーションを上げたりとか、『自分は本当に工場の中のロボットの一人や』って思い込むことにつながりますし、芝居の部分の役作りであったりしますね」

―― 努力家ですね。

新子「僕ですか? いや、全然ですよ、怠け者ですよ(笑)。マジックだけしかやってないです。小学校4年生から」

―― 今、おいくつですか?

新子「23です。マジックを始めて13年ぐらいですかね。マジックは子供では難しくてできない部分もあるんですけど、めちゃくちゃ好きやったんで、子供の頃からマジックだけしかしてないです」

―― 何がきっかけで好きになったんですか?

新子「家で母親にトランプのマジックを見せてもらったのがきっかけですね。僕、一人っ子なんですけど、家にいてたら、母親が「トランプ1枚選び」って。で、選んでみたら…。まあ、それを母親やったっていうのがインパクトが大きかったと思うんです。自分が日ごろよく知ってる母親が急にトランプを広げて、めちゃめちゃすごいマジックを披露し出す。そのマジックを見た僕は、身体が変わりましたね。興奮もするし、全然違う自分が出ましたね。で、『これや!』ってなって、マジックを見終わって感激した後には、どうやってやるかを一生懸命考えて、その次の段階では僕がそれをやっていることを考えてました。だからすぐに、母親にトリックを教えてもらって、次の日には学校でやって。それくらいもう、『これや!』ってなりましたね。『こんな面白いものがこの世の中にあるんか!?』って」

―― 普段接している人がすごいマジックをするって、ほんとに魔法を使ったような衝撃ですよね。

新子「そうです、そうです。さっき言った、マジックは日常にあるっていうのはそこなんですよ。日常にあるんです。マジックって言わなくても、生活している中でマジックに関連付けられるものはいっぱいある。僕からしたら映画もマジックやし、小説もマジックやし、ミステリー小説なんか特に、マジックじゃないですか。マジックを詳しく知ってて、ミステリー作家になってる人は数多くいますし、推理小説作家の綾辻行人さんも、もともとマジシャンで。僕は大学のときに出会わせてもらって、いろんなお話を聞いて、刺激を受けました」

―― 学生さんのときには既にプロデビューされていましたが、学生時代はどんなふうに過ごされていたんですか?

新子「本格的にマジシャンになるって決めたのが、大学である教授に出会って、社会学を勉強して、マジックに関する卒業論文を書いて、学問にしたことですね。そこで何か可能性が見えてきて。やっぱり面白いんですよね。どんだけ突き詰めていっても面白い。マジックが学問として成立して、その4年間がすごい楽しくて。僕、学生ではあったんですけど、教授に頼まれて各学部にマジックを用いた社会学を教えに行ってたんです」

―― 何か、思っていた以上にすごい展開です。

新子「『状況定義の操作』っていうのがあるんですけど、いわばミスディレクションと一緒です。『状況定義の操作とその方法』。『認知的不協和』とも絡んできますけど、『状況定義の操作』っていうのは、簡単に言うと、マジシャンは状況を操作することができるんですよ。状況っていうのは、その場にしか起こらないでしょう。今しか起こらない。この状況をマジシャンはいとも簡単に操作する。その中で、答えは最初からAと決まっていて、Aしかないので、相手にもAやって言わせるようにできるんです。Bとは言わせない」

―― ああ、Aと言うようにもっていくってことですね。

新子「そうです。それも気づかれず。それはメンタルマジックと言われるているもので。相手の心理的なものを使ってやるマジック。で、ゆくゆくは『ギア』でも、イリュージョンであったりとか、メンタルマジックを使ってお客さんの心を読むとか、そういうこともいろいろ考えてます」

―― なるほど。『ギア』を見ていると、すごい、わ!ってなるんですけど、やっていることそのものは、いわゆるベタですよね。

新子「そうなんですよ。やってることは常にベタ。マジックを見ると、子供も大人も国籍も何も関係なく、笑ったり、ビックリしたり、怖がったりしてっていう反応があるんですけど、その捉え方は全然違うんですよね。それだけいろんな捉え方をしていただけるのであれば、いろんな可能性で捉えてもらえるように、紋切り型ということではなく、受けやすいネタを選ぶようにしています」

―― では、お客さんには、『ギア』をどういうふうに楽しんでいただきたいですか?

新子「ピュアな気持ちで見てくれると、いろいろ驚けると思います。疑ったりしてみると、ほんまにもったいないです。僕もマジックしてますけど、人のパフォーマンスを見るときにはまっさらな気持ちで見るようにしてます。でないと、その人のいいところも悪いところもわからない。まっさらな気持ちだからこそ、わかったり、伝わったりすることがあると思います」

―― ついご職業柄、斜に構えて見てしまいそうですね(笑)。

新子「実際、そういう目を持ってしまっているんで、すべて同時進行で見えるんですよ。他の人のパートの動きであったりとか、そういうところも気になって。何でしょう、脳みそが裏と表を常に考えてるというか。マジシャンって裏と表を常に同時進行でやるんですよ。例えば、本当は右手にはないけど、あるという芝居をしているわけです。体にウソをついているんですよ」

―― 脳の指令を欺いてるってことですかね。

新子「そうなんですよ。わかりやすく言うと、マイムの要素もあるんですよね、マジックには。ただ、マイムとマジックにはかなり決定的な違いがあって。マイムは最初から嘘だよって言ってる。現実には壁がない。壁はないですよって最初に言うから、だから見る人はそこに壁があると思って見てくれる。本当にその世界に入り込もうとしているんですよね。でもマジックの場合は、これは嘘じゃないよと言って嘘をつくんですよ」

―― なるほど~。話を聞いているだけで面白いですね。

新子「面白いでしょ。難しく言っているように聞こえるかもしれないですけど、マジックは日常にありふれていることなんですよ。ただ、『ギア』では、ファンタジー仕立てにしてます。日常にはないことをしてます。いかにファンタジックにマジックを絡ますか、いろんな提案をして。『わ~すごい!』ってリアクションしてくれたらすごいテンション上がるんですよね」

―― 聞いているこちらも、テンション上がりますね(笑)

新子「そんな感じで僕たちもテンション上げながら作ってるんで、お客さんもリラックスして見てもらえたら一番楽しめると思います。そしたら、気づいたら終わってるっていう。後は、気持ちの中で何が残るかですよね。『ギア』って上演時間で言うと1時間程度で感覚的には短いって思うかもしれないですけど、やってることはひとつずつ濃くて、いろんな要素がいっぱい入ってるんで、リラックスして、フラットな気持ちで見ていただければ嬉しいですね」

取材・文/岩本和子




 

スペシャルインタビュー① スペシャルインタビュー②
プロデューサー小原啓渡 兵頭祐香×佐々木敏道
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スペシャルインタビュー③  
いいむろなおき×NARUMI  
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(2011年3月14日更新)


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プロフィール

新子景視(あたらしけいし)

小学生の頃に初めてマジックを見たことを機に、独学でテクニックを研究・習得し、17歳でプロデビュー。観客の前で見せるクロースアップマジックからステージマジック、イリュージョンと多様なジャンルを得意とする。2009年に関西大学を卒業後、全国での公演やテレビ、ステージ出演など、本格的に活動を始める。また、コンテストでの優勝経験も多数。その実績からプロマジシャンを対象にしたレクチャーも行っている。

『ノンバーバルパフォーマンス「ギア」』

▼2月10日(木)~3月22日(火)
Creative Center Osaka内、BLACK CHAMBER
前売3000円
当日3500円
大学生2000円高校生以下1000円(要学生証)
[出演] ブレイクダンス(*):kaku/NARUMI/HIDE
マイム:いいむろなおき/岡村渉
バトントワリング(※):佐々木敏道/出口訓子
マジック:新子景視
ヒロイン(*):兵頭祐香/平本茜子/成山あづさ

(※)ダブルキャスト
(*)トリプルキャスト

※この公演は終了しました。